書籍「不登校そうだんしつ」出版

あべが思うこと

嫌なら断ればいいのに

いちどは「やる」と引き受けてはみたものの、
「やっぱり無理」と断念する場面が見られる子は多いです。

 

いちどどころか、そんなことが度重なると保護者としては
「できないのなら引き受けなければいいのに」
「嫌なら最初から断ればいいのに」
などという気持ちになるでしょう。

 

しかしそれは、
断ることができない、断りきれない、のではなく、
断るということを「知らない」のかもしれない、と考えてあげて下さい。

 

断るということを、
知ってさえいれば、とっくに断っているのかもしれません。


例えば、
幼い頃から「言われた通りにする」という習慣が根づいて、
いつしかそれが「言われたら、その通りにする」という行動しかできなくなることがあります。


言われたことを
やるのか、やらないのか、あるいは考えてみるのか、そうした本人の意思や気持ちを越えて
「反応」してしまうのです。


意思に関わらず反応しているのですから、
「断る」という意思を出す余地もありません。
そのような生活を続けていれば、「断る」という行為を身につけることもなく、あるいは知ることもないのかもしれません。

 

もちろん、成長すれば「断る」という行為を頭で知ることくらいはできています。
しかし、頭では理解をしていても、自分の心身とは結びつけることができなかったりします。

 

「断るのが怖い」「断ったら嫌われる」「断ったら話してもらえなくなる」などと感じていたり、あるいはそれが無意識に埋め込まれていたり。

 

そのような状態の子に、
「嫌なら断ればいいのに」などと言っても、かなり難しいのだと知っておきましょう。

 

断ることができるくらいなら、
あるいは断ることを「知っている」のなら苦労しない、という状態の子は多いです。

 

これまでの間にも、
もうとっくに厳しい状況であったり、困難な状況であってにもかかわらず、
断るということを知らなかったがために「やるよ、いいよ、わかったよ」と引き受けていたのかもしれません。
その時点で、心にも傷がつき始めていたのかもしれません。

 

「言われた通りにする」が当たり前になっていたことで、
「言われた通りにしない」という選択肢を持つこと、つまり「断ること」を身につけられずにいる可能性を考えて上げて下さい。

 

「やらない」のではなく「知らない」だけなのです。
そうであれば、
「やれ」よりも前に、教えてあげること、身につけさせてあげること、
具体的には「断っても大丈夫」という環境を作ってあげること、が大切です。

 

「断る・引き受ける」という表現に限らず、
「決意する」なども、ほぼ同様の想定をしてあげた方が良いです。

 

「どうせ行かないんだから、『明日は行く』なんて決意をしなければいい」
と言いたくなる場面もあるでしょうけれど、
「決意しない」ということを「知らない」のです。

 

「決意する」「やります、と言う」といったことが当たり前の環境に長くいたことで、
「わかんないよ」「やりたくないな」などと意思表示することを「知らない」でいるのかもしれません。

 

「感じ良く振る舞う」子も似ていますね。
「感じ良く振る舞わない」ということを「知らない」のです。

 

いつもニコニコ笑う顔だけを求められていたり、
泣いたり怒ったりすることを認めてもらえなかった環境にいたりして、
相手に対してニコニコ以外の顔を出すことを「知らない」のです。

 

ニコニコする気分ではないのに、いつもと同じく感じ良い顔をし続けることで心身のバランスを崩したり、
また、いざ感じ良く振る舞えなくなったとたんに、人と接することがこわくなったり、自信を失ったりするものです。

 

 

他にも色々とあるのですが、
いずれにしても、お子さんの意思表示や感情表現について、
「やらない」のではなく「知らない」のかもしれない、という視点は持ってあげて下さい。

 

「嫌なら断ればいい」
「行けないのなら、行くなんて言わなきゃいい」
と、軽く考えずに
「もしかしたら『知らない』のかも」と思ってみて下さい。

 

間違っても、
「断りきれない」のだから「小心者」だとか、
「行くと言って行かない」のだから「ウソツキ」などという勝手な判断はしないで下さい。

 

断っても良い、断っても大丈夫、ということを
「知らない」のであれば、まずは教えてあげましょう。

 

教えただけでは身につきません。
そこにあるのは「意思」よりも先に出てくる「反応」のようなものなので、
頭で理解させてあげるだけではなく、次は安心をさせてあげましょう。
「断っても大丈夫」「決意しなくても大丈夫」「感じ良く振る舞わなくても大丈夫」という環境を意識してあげて下さい。

 

お子さんの発言や行動が、
今の気持ちを素直に表しているのではなく、
過去からの、あるいは過去に蓄積されたものによって、その流れで現れているだけという可能性は考えてあげましょうね。