笑顔
ひとりごとです。
ボクの働く事務所は、
生徒が来ると、まずは挨拶をし、受付を済ませて、
そして、担当のスタッフと一緒に別のフロアへエレベーターで移動するのです。
ある中学生の男の子。
受付を済ませ、スタッフと共にエレベーターを待つ姿を、
ボクはちょっと眺めてみました。
彼はケラケラと笑っていました。
スタッフと何の話をしているのか、その内容は聞こえませんが、
とにかくケラケラと笑っていました。
時には、のけぞったりしながら、楽しそうに笑っていました。
そんな姿を見て、
「もう、こういう笑顔が見られるだけで、それでイイんじゃないかな」
と感じました。
もちろん、お金を頂いてお預かりしている以上、
笑わせればそれでイイ、などとは思っていません。
でも、こんな笑顔が見られれば、「それでイイ」と感じてしまいました。
なにが「イイ」のか、具体的には示せません、
感覚的に「イイ」と思ったのです。
彼の最初の面談は、ボクが担当しました。
ものすごい目つきで、にらまれました。
お母さまを交えて話をした1時間半ほど、ずっと、にらまれ続けていました。
質問に答えてくれるときには、目をそらしながら、ぶっきらぼうに。
そして、お母さまやボクが話し始めると、また、にらむのでした。
帰りは、挨拶をせず、他のスタッフ達のこともにらみながら、
エレベーターに乗り込み、その場を後にしたのでした。
しかし、ボクは嫌な印象は持ちませんでした。
あんなに「にらみ」をきかせながらも、また来てくれるような感じはしていました。
これこそ、もうホントに根拠はないのですが、なんとなくそう思ったのです。
にらみながらも、イヤイヤながらも、
なんだかんだで、また来てくれるだろうな、と。
そんな彼が、イヤイヤどころか、ケラケラと笑っているのです。
「もう、こんなに笑えるのなら、それでイイ」、
そう感じました。
帰りに挨拶をしているところへ、ボクも顔を出してみました。
「さようなら」と声にする彼は、やはりまた笑顔でした、
とても穏やかな笑顔でした。
見送るボクらも、自然と笑みがこぼれました。