書籍「不登校そうだんしつ」出版

あべが思うこと

話を聴く

相談に来た方の話を聴く、
あるいは、流れの中で話を聴く。

相手の話を聴くこと、
ちゃんと、できますか。

「話を聴く」って、
簡単なようですが、全くそんなことありません。

話を聴く、というのは難しいことだと思っています。
聴く人によって、
相談に来た方が話す量や内容は大きく変わります。

ある人が、
「あの相談者はあまり話してくれなかった」と嘆いていても、
別の人には、饒舌になっていたりすることはあります。

ある人が、聴き出せた内容を、
別の人が全く聴き出せないこともあります。

自分では「聴けた」と思っていても、
相手にとっては「ちゃんと聴いてもらえなかった」と感じることもあります。

とにかく「話を聴く」ということは簡単ではないです。

なので、
絶対に軽視しないで下さい。

馬耳東風という言葉がありますが、
そこまではいかずとも、
話を聴くという行為は、
最大の準備と、最大の集中力と注意を払って欲しいくらい大切なものです。

相づちを打つか打たないか。
目を見るか見ないか。
こちらから言葉を促すか促さないか。

話しやすい環境か。
身だしなみや言葉遣い。
自分がどのような顔で相手に向き合っているか。

ひとまずは意識して下さい。
自分が、どのような意識で「話を聴く」ときに、
相手が話しやすくなるのか、話してもらえるのか、
きちんと練習するなり誰かに見てもらうなりして考えて下さい。

大人相手、高校生相手、小学生相手、
男性なのか、女性なのか、
どのような立場で話を聴けば、相手が話しやすくなるのか、
あらゆる場面を想定してみることも必要でしょう。

技術論ではありません、
意識と集中力の問題です。

それくらい、 「話を聴く」ということは、
相談に乗らせて頂いたり、人間関係を構築する上での生命線です。

ここをおろそかにして、
なにかアドバイスをすることは、非常に難しいです。
「話を聴く」ことをおろそかにして、
なにか相手のプラスになろうとしては、
どんな相手にも同じことばかり言うしかなくなります。
だったら、あなたでなくてもいい、ロボットでもいいわけです。

あなただから、ここまで話した。
あなただから、ついつい悩みを語ってしまった。
と、言われることが目標ではないですが、
でも、それくらいまで話して頂くことは当然だと考えて、取り組んだ方がいいです。

よくスタッフへ言う例えなのですが、
ボクらの仕事は、
「おいしい料理を出すこと」ではありません。
「相手にとって最適な料理を出すこと」です。

相手の好みも聴かず、
体調も聴かず、嫌いな食材も、昨日の食事も、その後の予定も、望む気分も、
なにもかも聴かずに、 自分の得意料理だからといって安易に出してしまってはいけません。

しっかりと、聴いて下さい、
聴き切るイメージで聴いて下さい。

1回の時間内で全てを聴き出せ、という意味ではありません、
あくまでもこちらの意識だけの問題です。
そこまで集中して注意して心がけても、話しづらいことはありますし、話してもらえないこともあります。

よく技術論で相づちの方法とか、
座る位置とか向きとか、
あとはメモをとるとかとらないとか、
手法は様々わかれたりしますが、
そこは自分で最適な形を見つけて下さい。

最適、というのは、
客観的に見て、あるいは経験上、あるいは感覚的に、
相手が話しやすそうだった、と思える状態です。
もちろん、それも相手によって変わってしかるべきです。

ちなみに、
ボクは、数字や固有名詞などが出て来ない限りは、
メモをとりません。

しかし、この手法だけにとらわれて必死に頭の中だけで処理を進めようとしては、
「この人、聴いてくれているのかしら」と思われ、逆効果になりかねません。

だからといって、ひたすらにペンを動かしたり、
パソコンをカタカタやっていたのでは、
完全に視線がそれ、相づちも無機質になりかねないため、話しづらく感じる方もいます。

いくらかは訓練して下さい。
あとは、自分の最適なスタイルができればいいかと思います。

しつこいようですが、
意識の問題です、技術の話ではありません。

心を少しも開いてもらえず、
何日も何ヶ月もかかって、やっと話してくれることもあります。
あるいは、
初対面からずいぶんと話してくれたけれど、ほとんどウソだった、なんてこともあります。

色々あります。
ボクも偉そうに書きながら、上記2つとも経験しています。

技術も大切ですし、そこは学んだり先輩のマネをしたりして欲しいですが、
それだけではどうしようもない壁に必ずあたります、特に子どもの話は。

逆に、
技術はなくとも、
こちらの意識だけで相手が話しやすくなることもあると思っています。

どうか、
「話を聴く」ことが簡単だと思わないようにしましょう。

口数が少ない、人見知り、秘密主義、とにかく話してくれない、
のではなく、
こちらがそうさせてしまっている、のかもしれません。

「今まで、誰にも心を開いたことがない」と事前に言われたとき、
「だったら本音は話してくれないだろうな、仕方ない」ではなく、
「だったら自分が初めて本音を話せる相手になろう」というくらいの意識がいいと思います。

一期一会、全ての相談が一期一会。

ボクの持論の1つは、
「気持ちは伝わる」です。

「どうぞ何でも話して下さい。
些細なことでも、言いづらいことでも、恥ずかしいことでも、
私は誠意を持って聴く準備があります。
秘密は必ず守ります。真剣に聴かせて頂くことはお約束します。
聴き取れなかった場合は聴き返すかもしれませんし、
メモをとらせて頂くかもしれませんが、
でも、真剣に聴かせて頂くことはお約束します。
話しづらいことは無理しないで下さい、
また、ゆっくりと思いつくままで大丈夫です、
頭の中で整理をしなくても、思うままを言葉にして頂いて構いません。
どうか安心して下さい、安心してお話し下さい、
私はあなたの話を聴く準備はできています、安心して聴かせて下さい」

と、言うのではなく、
これくらいのことを心の中へいったん据えて、
それから、相手と向き合うくらいがいいと思います。

ずいぶん大げさだと思われるでしょうし、
そんなことで、ここまで書くのかと感じるかもしれません。

けど、これくらいのことだとボクは思っています。
繰り返しですが、
話を聴けるかどうかは、相談を受ける際の生命線です。
生ものが苦手ということも聴けずに、特上の寿司を出したってダメなのです。

なので、
よろしければ、今よりも少しだけ、
「聴くこと」について、大切に考えて頂ければな、と。

心から「美味しい」と喜んで頂くために。
※構成上、「聴く」という漢字表記を全ての箇所で使いました。
違和感があっても気にしないで下さい。